タイ労働法│解雇・退職金(解雇補償金)について
タイ労働法とは「労働者保護法」のことを指し、これは1998年(仏暦 2541年)に発布されました。
これはタイ人のみに適用されるものではなく、タイで働く全ての国籍の方に適用されるもので、もちろん私たち日本人も対象外ではありません。
労働者保護法には多くの取り決めがあるものの定義が曖昧な場合も少なくないため、長年人事労務に携わるタイ人マネージャーであっても誤った認識を持っている場合があります。
そのため、会社や従業員、そして自分の身を守るためにも、タイに赴任したらまず労働者保護法の基本的な部分を把握しておくことをお勧めします。
このページでは、タイの労働者保護法に関する基本的な部分を数回に分けてご紹介していきます。
今回は解雇・退職金(解雇補償金)についてです。
タイの退職金制度の基本
タイでは、日本のように企業が独自に制度を設けて支給する退職金とは異なり、法律によって定められた解雇補償金制度が存在します。
これは労働者保護法(Labour Protection Act)に基づき、一定期間以上勤務した従業員を解雇する際に会社が支払う必要がある補償金です。
日本では退職金制度が任意であるのに対し、タイでは解雇時に最低限支払うべき補償額が法律で定められている点が大きな違いです。
日本の退職金制度との違い
日本では退職金制度は法律上の義務ではなく、企業が福利厚生の一環として導入するケースが一般的です。
一方タイでは、解雇に伴う補償として勤続年数に応じた最低額の支払い義務が法律で定められています。
解雇補償金が発生するケース
解雇補償金は、会社の都合で従業員を解雇する場合に支払いが必要となります。例えば以下のようなケースです。
- 経営上の理由による解雇
- 組織再編や人員削減
- 業績不振によるリストラ
外国人従業員への適用
解雇補償金制度は国籍を問わず適用されるため、タイ人従業員だけでなく、日本人を含む外国人従業員にも同様に適用されます。
解雇補償金の支給額(勤続年数別)
解雇補償金の金額は、従業員の勤続年数に応じて法律で定められています。勤続年数が長くなるほど補償額も増加し、最大で400日分の賃金が支給されます。
勤続年数に応じた解雇保証金の額は下記の通りです。
| 勤続年数 | 解雇補償金 |
|---|---|
| 120日以上1年未満 | 30日分の賃金 |
| 1年以上3年未満 | 90日分の賃金 |
| 3年以上6年未満 | 180日分の賃金 |
| 6年以上10年未満 | 240日分の賃金 |
| 10年以上20年未満 | 300日分の賃金 |
| 20年以上 | 400日分の賃金 |
この制度は2019年の法改正により、勤続20年以上の補償額が400日分に引き上げられました。
解雇補償金の計算方法
解雇補償金は「賃金」を基準として計算されます。ここでいう賃金には、基本給だけでなく一定の手当が含まれる場合があります。
計算の基準となる賃金
賃金の定義については労働者保護法に明記されていませんが、基本給に加えて月額固定の手当が対象となります。
以下は月額固定手当の代表例です。
- 基本給
- 役職手当
- 住宅手当
- その他月額固定で支給されているもの
計算に含まれない可能性があるもの
一方で、以下のような費用は賃金として扱われない場合があります。
- 実費精算の交通費
- 日当たり計算の食事手当や交通費
- 出張費
- 皆勤手当
- コミッション
計算例
例えば、月給50,000バーツで勤続4年の従業員を解雇する場合、支給基準は180日分の賃金となります。
一般的にタイでは、月給を30日で割って日額を算出します。
50,000 ÷ 30 = 約1,667バーツ
1,667 × 180日 = 約300,000バーツ
このように、勤続年数が長くなるほど企業側の負担も大きくなるため、解雇の際には事前に補償額を確認しておくことが重要です。
解雇予告手当
タイでは従業員を解雇する場合、原則として事前に解雇の通知を行う必要があります。
解雇予告の基本ルール
通常は、少なくとも1回の給与支払期間以上前に解雇を通知する必要があります。そのため、月給制の場合は、約30日前の通知が必要です。
事前通知を行わずに即時解雇する場合には、解雇予告手当の支払いが必要になります。
解雇予告手当とは
会社が事前通知を行わず即時解雇する場合には、解雇予告手当として支払う必要があります。
手当の額は通知期間に相当する賃金と同等額です。
つまり、月給50,000バーツの人を即時解雇する場合は解雇保証金の他に解雇予告手当として追加で50,000バーツ支払うことになります。
解雇補償金との違い
解雇予告手当と解雇補償金は別の制度です。
- 解雇補償金:勤続年数に応じて支払う補償
- 解雇予告手当:事前通知を行わない場合に発生する補償
そのため、ケースによっては両方の支払いが必要になることもあります。
解雇補償金が支払われないケース
すべての解雇で解雇補償金が発生するわけではありません。
労働者保護法では、一定の理由による解雇については補償金の支払い義務が免除されています。
以下のようなケースが補償金の支払いを免除される一般的な例です。
懲戒解雇
- 故意に会社へ重大な損害を与えた場合
- 不正行為や横領
- 重大な就業規則違反
- 正当な理由のない連続欠勤
このような場合、会社は解雇補償金を支払う必要がないとされています。
その他のケース
- 勤続120日未満の解雇
- 自己都合退職
特別解雇補償金
特定の状況では、通常の解雇補償金とは別に特別解雇補償金が必要になる場合があります。
事業所移転による退職
会社が事業所を移転する場合や、従業員へ別支店への転勤を命じる場合で、従業員の生活に大きな影響が出る場合、従業員は転勤を拒否して退職することができます。
この場合は自己都合退職(自主退職)とはみなされず、解雇と同様に補償金が発生する可能性があります。
機械化・合理化による解雇
企業が機械導入や業務の合理化を理由として従業員を解雇する場合、一定の条件下で追加の補償が必要となることがあります。
解雇時の実務上の注意点
タイでは解雇に関する労働紛争が比較的多いため、企業側は慎重に対応する必要があります。
解雇理由の整理
解雇理由が不明確な場合、不当解雇として争われる可能性があります。
そのため、解雇に至る経緯や理由を明確に整理しておくことが重要です。
事前に時系列でまとめておいたり、音声データや写真などで会話の内容を記録しておくことがおすすめです。
解雇補償金の支払いタイミング
解雇補償金は、通常解雇時または最終給与の支払い時に支払われることが一般的です。
不当解雇と判断された場合のリスク
労働裁判所で不当解雇と判断された場合、追加の補償金や復職命令が出される可能性もあります。
そのため、解雇の際には労働法の規定を十分に確認しておく必要があります。
まとめ
タイでは、一定期間以上勤務した従業員を解雇する場合、労働者保護法に基づき解雇補償金の支払いが必要になります。補償額は勤続年数によって決まり、最大で400日分の賃金となります。
また、解雇の方法によっては解雇予告手当や特別解雇補償金が発生する場合もあるため、企業は解雇理由や手続きを慎重に検討することが重要です。
タイで人事労務管理を行う企業にとって、これらの制度を正しく理解しておくことは労務トラブルの防止にもつながります。
尚、ご紹介した内容はタイ国労働者保護法に書かれた内容および下記参考サイトから抜粋し、わかりやすい言葉に要約した上でお届けしております。
内容は2026年4月時点の情報であり、最新情報とは異なる内容になっている可能性があることをご理解いただけますと幸いです。
内容の詳細やご不明点に関してはご自身で関連省庁、法律事務所、顧問弁護士等へご確認ください。
参考サイト
・Labour Protection Act B.E. 2541 (Official English Translation)
・Thailand Labor Protection Act (Law Library)
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